霙のち鈴
――2011.12.25
杉本徹
……或る教会と口にして、やがて壁づたいに日は暮れる。下車駅で踏んだ陽のまだら(鳥には鳥の縞)。数年と数分前に立ち寄った古いガランスの扉は、どうしても見つからない。膝を折るこの影と語る、叢、冬空に靡き、
ねむる葉を手に、すき間から星座の空洞を測る。稀な、細い音がして、……照準を定めると、あちら側の校庭の薄氷に呼気も照り返す。その、数刻の霙。
霙とはまぼろしの名――「行きなさい、一年遅れのバスを待ち」指でたどった記譜が総武線の背をも越えて、あまい光となって潰える刻へ。
(みなしごの低気圧は、北東へ去りながら、
(ポリバケツの南西や土の湿りに、備忘の罅もうかんだ、……
なだらかな時系列をかいくぐる鳰(かいつぶり)の、うしろ映えに、きのうの釣り人のしまい忘れた擬餌や礫を、ぬくもりごとかざす隘路をためらい、
ひゅうと錐揉みの風に眼をしばたたいた。……あかがねの残照に鈴を走らせて、巣へといそぐ羽搏きの気配は弓なりの思慮で、水を穿つ。そこも、ここも、きららかな音まみれの星の突端、葦原が都心までつづく、と。
日比谷という葦原、四谷という葦原。ぬかるみを避けて紐靴が横に跳び、
縦に吹き上がる黄葉の、再びの光景はスローモーション! ……外堀通りの谷底からビルの頂へ、ひとつまみの親しい気流の描く、それじたい回遊の一閃、
(蠟、四部屋、今日の暮らし、……とアトランダムにメモする、バスの座席、
(腕時計の空白を外さず、乱反射を座席に残して、
廃れゆく植物園の匂いを夕闇ごしに、つたう――それは光陰の手捌きのさやぎに、分け入ること。そんなふうに最初の道の左折を、頰にふれた蔓の右撥ねに聞く。柿の実もとうに落ちて、古楽器のような切り株とともに。
オラトリオ、光失くした雑木の行き交いに、
数歩、……象られる気球の残像を虚空に放ち、とどかない星座の輪郭だけ指で結ぶ。明け暮れはそっと、地球の意のままに。残像となるまで。
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まぶしさを数へて冬の散歩かな 江渡華子
いずれ冷ゆるや聖樹の鈴と天の星 神野紗希
聖菓切るフォーク輝かせて都民 野口る理
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