平成14.6.30 富士見書房刊行
『飯島晴子全句集』より。
俳句の話ですが、二通りの選択肢がある場合、より渋い方、笑えない方の表現を選択するようにしています。
これが人によって全然違うんだろうなと、より華やかな、詩的な方を選択する人もあると思うし、それぞれの選択が俳人の数だけあるんだろうなと。
ただ、あまり俳句の友達とそんな話をしたことが無いので、みんなどうしているんだろうかと、ちょっと気になったりする時があります。
聞かないままにしておくのは、一寸した内緒がある方が面白いから。
いよいよ晴子さんの最後、最後だけど、初期作品(「馬酔木」時代)を読んでいきます。
一日の外套の重み妻に渡す
はい、渡しました。
フリージア噓美しく伝はりぬ
いい方に。大きく。
冬木立つ逃ぐるすべなき確さに
ただ立つこと。淋しさと強さと。
蟇追へば素直に闇に出でゆけり
たっぷりとある闇へ。
蟹遊ぶ寝椅子に遠き海を見る
自由できらきらとした蟹。「遊ぶ」がいいですね。
人間の善意ぎつしり布団干す
ぎっしりびっしり。
搔きおこす埋火の奥のわが時間
めらめらとゆらゆらとあるもの。清潔な詩心。
歳月の流れのそとに枇杷咲けり
佐太郎の短歌を思い出します。〈苦しみて生きつつをれば枇杷の花終りて冬の後半となる〉枇杷の花はつつましい理想。
オルゴオル一音欠けて二月尽く
この場合はオルゴールでは感じが出ないですね。
大根抜く武蔵野の土の暗さより
昔の武蔵野のままの暗さより。
冬青空どこにも足場見つからぬ
さて、どこに行くか。
乙女らの泪短し卒業歌
綺麗な泪。苦労に疲れていない美しさがある。
泉湧く力両手に覚えさす
感動を、肉体に。
夏炉焚く煙や霧にまぎれつつ
我もまたゆらり。煙や霧、炎等のあるけど、無い、そんなのが好き。
馬追の溺れてをりぬ渋煮釜
馬追は実際見ると、案外怖い。
草刈つて草の匂ひに憩ひをり
無心に刈って、休む。
雪山に桃缶切つて成人す
組み合わせが絶妙。初期作品からもうこんなに面白いんだと驚きました。
ひとの死へ磨く黒靴朧の夜
真っ黒に真っ暗になるまで。
瀧の上の小さき空を胸にしまふ
大事にしているもの。
意地捨てて海月のごとく流れたし
もちろん意地は捨てない。
登り来て思はぬ雪の樹林帯
人の力が絶対に及ばない美を信じている人の句。
初期作品から見事に飯島晴子でしたね。全句集、今回で終わりです、どきどきする句がたくさんありました。
次回は何やろうかな
じゃ
ばーい