昭和25.11.10 新甲鳥刊行
上野泰句集『佐介』より。
七億円あったらどうするか?
を考えることによってストレスを解消する方法があるらしいの、と妻。家を買うでしょ、美味しいものを食べるでしょ、と結構楽しそうに話していて、あなたどうする?と聞かれて、はて、どうしようかなと…。
僕「仕事を辞める」
妻「…それで」
僕「図書館を、買う」
ま、七億円、ないけどね。
仕事を辞めたいとか、本が欲しいとは思うけど、お金が欲しいとなぜか思わない。
お金がないと本を買うことは出来ないのだから、働かないといけない、と当たり前のことが、わかっているけど、わかっていないのかもしれない。
冬灯蹴つ飛ばし吾子生れけり
オギャー感。
お降りに濡れし新聞拾ひ読み
しっとりとした。
大冬木黄金の棒の如き時
綺麗でぬーっとしていて。
十畳に少し暗しや冬灯
少しね。「冬」が効いている。
噴水に濡れつづけをる浮葉かな
そんな浮葉もあるある。
耕牛の傾きながら憩ひをり
ふー。
猫の目の如く光りて滴るも
にゃ。にゃ。にゃ。にゃ。
冷水を棒の如くに呑みにけり
有名句ですね、「棒の如く」の傑作の一つでしょう。この句集はこれでもかと「如く」を多用しています、作者の別にいいでしょ、という姿勢が自由で涼しい。
雷のごと大虻の過ぎにけり
虻にびっくり。
秋天につかまつてをる蜘蛛のあり
ぶらーん、ぶらーん、いい気分の。
湖に焚火を捨てて去りにけり
さ、帰ろ、ぐらいの。
用のある時立ち上り冬籠
よっこいしょういち。
ストーブの中の炎が飛んでをり
これも好きな句です。よく見ると不思議なもの、たくさん。
洗ひ髪夜空の如く美しや
「美しや」に似合うだけの美しやな句。言ってみたいですね、夜空のようだ、とか。
かたむきて風鈴の鳴りつづきをり
忙しくちりちりん。
打水の空に飛びつく水のあり
元気な、水。
昼寝猫袋の如く落ちてをり
やわらかな、どうにもならないぐらい可愛い。
秋天下一杯に巻く龍頭かな
今日もなんだか元気です。
不思議な、面白い句集です。
じゃ
ばーい