なめ肉③

2016.7.9 ふらんす堂刊行
岡野泰輔句集『なめらかな世界の肉』より。

テレビや映画を見て泣く人なんかどうかしている、と高校生ぐらいまで思っていました。大喜びもしないし、熱くなることもない、僕は結構冷たい人間なのかなと、ちょっとだけ悩んだりもしました。

現在、僕も33歳になり、随分と涙腺が弱くなりました。

泣きます、何を観ても簡単に泣きます。
レスリングの吉田選手が負けてインタビューに答えているところなんか、朝の五時半から号泣でした。子どもが出る映画、老人が出る映画、ペットが映る映画、簡単に泣きます。

僕が老人になったら、朝からずっと泣いているんじゃないかと心配です。

生きていると、 不思議がいっぱい。

『なめらかな世界の肉』三回目、ラストです。

大人しく雪見のなかに亡父をり

そこは寒いか、父さん。

学校が早く終つて竹の秋

そんな日をぶらぶらする楽しさよ。

あやまちはへらへらとゆく秋の暮

いけないいけない。人はくらくらとあやまちする。

虹立ちてかはいいことをいひさうに

おっと、危ない危ない。

イタリア名つけた金魚のすぐ死んで

おぉ、愛しのジローラモ。

夏痩せて猫どこへ行つても独り

気楽で孤独な。

打水にしてはふつうの量でなく

ざぶざぶやらなきゃ気がすまねぇ。

盆棚の写真を褒める近所の人

近所の人とはそこそこの距離で。

菊膾こつこつやる人がえらい

そう。

盆の僧いきなりスピーカーに触る

そう、俗であること。

だんだんと跳ねる踊となりにけり

暗闇ぴょんぴょん。

秋の夜の指揮者の頭ずーつと観る

そんな秋の夜でした。

SFの棚に鬼六秋の昼

名前大切、鬼六先生はどこにあってもよく目立つ。

モニターに厚着の男吾らしき

あ、吾、それ。

考へて屏風を置いたレストラン

良かれと思った。

綿虫の後姿が楽しさう

軽快な、わくわくした感じの。

やくかいな人とふたりに春の川

話すでもなく黙るでもなく。

万物の最後尾にてかぎろへり

最後尾にて盛り上がる。

いやー、かっこいい句から、ただただ変な句まで、実に楽しませていただきました。

次は何やろうかな。

じゃ

ばーい