長く十年、濃く十年②

2016.8.25 角川書店刊行
高橋睦郎句集『十年』より

絵本『ごんぎつね』を読み返すことがあって、立ったまま涙がこぼれそうになりました。

その会場(絵本作家の講演)では、地元の子ども達が、懐かしい曲などを演奏しており、またまた涙がこぼれそうになりました。

どうもダメだ、33歳にして涙もろくなってしまった…。俳句の場合、句を選ぶ時(自選や他の人のも)は結構冷たい目をしながら選んでいる気がします、あぁ、ちょっと冷たかったかなと反省することもあります。

が、他人の子どもがちょこちょこ歩いていたり、素敵な老人を見たり、健気な動物を見たりすると、うぅっと涙が出そうになります。

優しさは必要だけど、最低限の強さはないと、生きていくのに困るなぁと。

高橋睦郎句集『十年』の続きです。

人は多く再び会はず星夕

またね、とは言いつつも。

秋の蚊やうつくしき人の訃を今宵

あぁ…。静かな夜長を迎え。

脚長く垂れて落ちずよ秋の蚊は

秋澄む中の秋の蚊は。

大阪の秋暑き日を駄駄歩き

大阪のごちゃっとした場所が好き。こてこての。年々そんな場所が懐かしい。

炎冷え灰冷えにけり五百年

応仁の乱あたりから。

彼も彼も酒に死にけり年の果

生きることさびしさの一つ。

亀鳴くと見せて落ちけり池の昼

ぽちゃん。

木の葉髪黒きは卑し白きより

年相応のよろしさ。

巣箱出つ入りつ蜜蜂怒り易

忙しく忙しく。蜜蜂であるところが良い。

初明りもの古きこそ新しき

初明りが神様の息吹のような。

あぶな絵の阿鼻叫喚や春の雪

春の雪が優しく、それだけにあやしくて良い。

おほぞらの奥に海鳴る涅槃かな

海を想う。

桃実る巨きく全く怖ろしく

やがて来るどんぶらこどんぶらこ。

天が下暗き踊の輪がありぬ

昔の暗さありにけり。

木の草の光りざま見よ秋の風

命の光りざま。

雨ながら良夜と知るか蟲のこゑ

雨音と、少しの虫の音。

こゑなくて晝の櫻のよくさわぐ

昼を遊ぶ、雄大に。

冬山となりて深さよ奈良の奥

人の来ぬ、しんとした奈良よ。

良い句集です。ぜひ読んでみて下さい。

じゃ

ばーい