1990.2 沖積舎刊行
『原石鼎全句集』より。
同じもの、知っているものが好きで、変化を嫌がるところがあります。
せっかく中華を食べに入っても、結局エビチリや酢豚、焼売とかが食べたくなります。なんか見たことがない、アヒルの何とか、なんかのスープ、なんかのなんか、とかは食べものに精通した友だちが、これは美味しいものである、こわくないものでアルヨ、と教えてくれなければ手を出さない。
徒然草にはものくれるやつ、いいやつ、みたいな話があるけれど、大人になってから思うのは、美味しいもの知っている友、大事ということ。
バーみたいな場所に入ると、ジントニックかマティーニしか飲まないけれど、あれも別に好きで飲んでいるのじゃなくて、他の飲みものを知らないだけ。小洒落たお酒の一つか二つ、知っておいた方が良いとも思うけど、仕方がない。
石鼎の三回目です。
女房もなくて身を古る音頭取
男は黙って音頭取。
寺の扉の谷に響くや今朝の秋
今朝の秋、今朝の寺。
山墓や燈籠ひくく賑やかに
灯を消せば、真っ暗。
蜩や今日もをはらぬ山仕事
明日もおわらぬ。
蔓踏んで一山の露動きけり
好きな句です。世界はぞっとするほど綺麗。
橋に来て谷の深さや月の虫
下を見ちゃ駄目な橋。
秋の日や猫渡り居る谷の橋
渡るのは猫と、たまに人。
淋しさにまた銅鑼うつや鹿火屋守
またまた打って淋しいな。この句古いかなと思いつつも、読み返すたびに、やっぱり良いなと思う。
磯鷲はかならず巌にとまりけり
お気に入りの、巌。
想ひ見るや我屍にふるみぞれ
老後が心配、いや死後か。
全て大正二年の句です。いや、すごいなと。
じゃ
ばーい