2011年8・9月 第五回  毛虫焼くほのほ見えねどゆらめきて  片山由美子(江渡華子推薦)

2011年8・9月 SST×スピカ (榮猿丸×関悦史×鴇田智哉×神野紗希×江渡華子×野口る理

毛虫焼くほのほ見えねどゆらめきて   片山由美子
(「俳句」2011年7月号・角川学芸出版)

江渡   ゆらめいているのが、毛虫の魂だっていわれちゃうと微妙なんですけど、炎が見えないくすぶり感。煙が出てる感じの焼かれ方っていうのを想像して、匂いもしてきそうで、いやあな死に方ですよね。でも、それをしっかり観察して。その冷静さが面白くていただきました。

 榮   いい句ですね。的確な、手堅い写生句です。炎は見えないけど…

江渡   熱でぼやあっとしている。

 関   すいません、わたし、あと十分で終電。

鴇田   えっ!

 榮   そんな時間ですか。

野口   ヤバい。

江渡   マルサルさん(なぜか華子はいつも猿丸さんのことをマルサルさんと呼ぶ)が結局、まだ句を挙げてないですよ。

 榮   まあ、いいじゃないか(笑)

野口   いいんですか(笑)

神野   どさくさにまぎれて選んだ句を出さないつもりの人がいる(笑)

野口   関さん、間に合いますか?

 関   今出れば、余裕で間に合う。

江渡   よかった!

神野   それでは、関さん、先に抜けます。今日は長時間、ありがとうございました。

 関   今日はずっと喋ってたなあ…それではまた…。

野口江渡   ありがとうございました!

 

(関さん、帰宅の途へ)

鴇田   …さて、毛虫の句だよね。

野口   単純に、巧みだと思います。でも、ここに敢えて心象をのせることももちろん出来て…毛虫のように忌まわしいものが燃える炎も素敵…みたいな。ちがう?

神野   うーん…

野口   ちがった…?(照)

鴇田   ちがわないんじゃないの?(笑)

神野   でも、これは美しい炎ってわけでもないよね。炎は見えてなくて、ゆらめく熱気みたいなものが、暑さを感じさせて、毛虫は夏の季語ですよってことを補強しているみたいな感じかな、と思ったけど。だから、淡々と描写してる句かなと思いました。

野口   そっか、「見えねど」ってことは、見えてないんだ。

神野   見えてない。

 榮   熱だけで。

野口   ああー。

 榮   その、炎が見えない感じが、夏っぽいなと、僕は思った。

野口   かげろう的な、ってことですか。

江渡   そうそう。

 榮   見えない炎が、夏の強い日差しなどを感じさせて、夏独特の空気感とか、臨場感があって、いいなと思いました。

野口   毛虫焼くときって、炎出ないんですか?

神野   焼いたことないから分からないけど、生きてるわけだから、生焼けっぽいんかな。

 榮   ジュっていうね。焼けてる毛虫が、透けて見えてるわけで。

鴇田   炎って、透明っちゃ透明だからね。昼間だろうし。

 榮   そうそうそう。

鴇田   昼間の炎って、あんまり見えないしね。

野口   なるほど。となると、「ゆらめきて」が、ちょっとレトリックが効きすぎてるような…。

 榮   レトリックが効いているというよりも、いわゆる常套的な表現ではありますよね。

野口   落とし所として。

江渡   見えない時点でゆらめいてる?もしかして。

神野   いや、でも「ゆらめきて」まで言わないと、その熱でゆらめいている透明なものまでは見えてこないと思うんで、全部のことばが正しく機能してると思いますよ。どの言葉を欠かしても、描けない内容だと思います。

 榮   「ねど」っていう、逆接はどうですか。

神野   うーん、たしかに「どや」って感じはしますよね。

 榮   「ねど」っていう因果関係が、ちょっと気になるな。

鴇田   毛虫の様子をいってほしいね。炎があることは、「焼く」でもう分かってるから。毛虫の様子を何か別の言葉で言えたら、すごい面白い句になるのになって思います。

江渡   この人は、たぶん、毛虫が焼かれてるところから感じ取ったことを表現したいんじゃなくて、描写がしたいってことだと思うんですよ。

鴇田   火が見えなかったってことに感動があったから…

江渡   それに徹している、っていう。丁寧に描いてる。

 榮   最大公約数にすると、こういう俳句が、いま俳壇でいちばん人気なんじゃないかなって気がする。

神野   「ねど」的な。

 榮   「ねど」のサービス精神とか、「ゆらめきて」っていう落とし所とか。

鴇田   そうなのか……。でも、この「ねど」はやだな。「ねど」で急に毛虫の次元から人間の次元に引き戻されちゃうんだよね。せっかく毛虫の夢を見てたのに。でも、この句は「ねど」のサービス精神で成り立っていると……。

 榮   うん、そんな気がするな…。納得はしてないけど。

江渡   あとはね、もう一句、挙げようかどうか迷ったんだけど…

野口   なになに?

江渡   「夏風邪やパフェをえぐりて匙長き」(「俳句」2011年7月号・角川学芸出版)。

神野   優夢の句だ。

 榮   優夢!いいじゃない。

鴇田   「ナツカゼ」が巧いね。

神野   そうですね。

鴇田   「春風」「秋風」は言うけど、「夏風」ってあんまり言わないね。でも、ここでは「夏風」が合っていて面白いね。

江渡   これ、病気の風邪です。

鴇田   え? そうなのか……。耳で聞いて「ナツカゼ=夏風」だとばかり思ってた。「ナツカゼ=夏風邪」だとすると、意味が出ちゃって面白くないなあ。

野口   心象にもなってきますよね。「匙すら長いよ、グッタリ」みたいな。

江渡   そういうところも書きたいんじゃないかな。もたもたさせたい感。

 榮   たしかに「パフェをえぐりて匙長き」は面白いね。

鴇田   「パフェをえぐりて匙長き」は面白い。だからこそ、「風邪」でなく「風」がいいと思っちゃったけどな。

江渡   なるほど。言っときます。甲府でさみしいみたいです。

神野   さみしがってる。

(次週は、榮猿丸の推薦句をよみあいます)