2011年11月 第4回 おまけ 外から見た俳句

佐藤文香×神野紗希×野口る理

おまけ
(『ユリイカ』2011年10月号「特集・現代俳句の波」と『SPUR』2011年12月号「モードなわたくしがここで一句」ほか)


(↑「ユリイカ」池田澄子インタビューのときの服装とこの日の服装がおなじ、というポーズ)

神野  「ユリイカ」の現代俳句の特集はどうでしたか。

佐藤  まず、る理ちゃんに聞きたい。うちらは書いちゃってるから。

野口  ええっと、作品欄の俳人の俳句、つまり紗希さんや文香さんの句は、いらなかったんじゃないかなって気がしました。この流れで行くと、もっと外からやってる感が欲しかったかも。まぁそもそも俳句プロパーの人のバランス自体も結構偏ってますよね。

神野  そうだね。私も同じ感想です。「現代俳句の波」っていうタイトルと、内容とが、そぐわないような気がしたな。俳人以外のひとが作品を出したり語ったりする点、自由律や多行俳句とかね、俳句の中でも辺境の、山頭火や放哉や高柳重信たちを特集した点、それから、俳人の中でも若手のみが作品を出した点、このへんの特徴を考えると、「現代俳句の辺境」といったほうがあたるような感じがしました。若手も、俳壇の大きな機構の中では、辺境に位置してますよね。関悦史さんが「俳句の郊外ショッピングモール」と表現していましたが、その郊外のフラット感。

野口  又吉直樹さんの「人をポエムって言うたお前がポエムや」ってタイトルがよかったですね。

佐藤  私もそれ、おもろいと思った。

神野  川上弘美さんと、千野帽子さん、堀本裕樹さんの鼎談にしても、彼らが、句会を面白いと感じているっていうのが興味深かったですね。あの鼎談は、小説を書いてる川上さんや、書評を書いてる千野さんが、俳句の世界でつねに面白いとされてたこと、句会の互選システムとかですね、そういうものを、外によく見える場所で、あかるい言葉で語り直したってところが、新鮮なんだと思うんですね。この現代に、最先端でものを書く人が、俳句の作品について語るんじゃなくて、句会の楽しさを語っている。そういえば、小林恭二さんの『俳句の楽しみ』っていう新書も、すごくヒットしましたが、あれも句会録。

佐藤  そこから入って、面白い俳句を読んでみよう、って人がいるといいな。

神野  そうだね。ここのところ、俳句のジャンルの外からの、俳句へのアプローチが目立ちますね。2011年の「群像」の新人文学賞の評論部門を、彌榮浩樹さんが「1%の俳句」という論考で受賞したのも印象的だった。現代俳句も、外部から見れば、ある種のエキゾチシズムをそそるのでしょうか。

野口  そうでしょうね。俳句に限らず、知らない世界って大体そういうものなんでしょうけど。

神野  「SPUR」の俳句特集はどうでしたか。

野口  それっぽくなってましたよね!表紙の見出しにも書かれててビックリしました。「モードなわたくしがここで一句」という特集名にもビックリしましたが。(笑)

佐藤  私が「俳句は、575の間を一字空けしないように」とか、作者名の添え方、字体なんかはアドバイスしたけど、あとは「SPUR」の編集部の方のセンスです。

神野  やっぱり、プロはすごいね。俳句も、見せ方なんだなと思います。やはり、作品、一句の俳句を大切にしたいという気持ちがあるのかな。

野口  「こんなのも俳句なんですよ!」というアピールじゃなくても、各々が真摯に自分の俳句を提示するだけで、充分伝わるものはあるんじゃないかという思いを強くしました。

佐藤  結局、作品だよね。ぜひ夏にも、水着やタンクトップを題材に……

神野  水着、いいね。(笑)ほんと、作品がすべてだと思います。ただね、じゃあ、その俳句作品の価値、よしあしを決めるのは誰なのかっていうところで、誰が読むのかってこともかかわってくるんだよね。芥川賞や文学賞と、本屋大賞と、口コミと…どれを信じるか。俳句も、「この人がいいっていうからいい作品だ」っていうような権威がない今、その作品を支持する人数で、単純に作品の価値が決まってしまうような気がして、それもなんだかちょっと違うなって気はしてる。でも、俳句関係の雑誌ではなくて、「ユリイカ」や「SPUR」といった、私でも名前を知っているような思想誌やファッション誌が、真剣に俳句を取り上げてくれることは、単純に嬉しいことですよね。俳句が本来育ててきた、蓄えてきた素晴らしさが、一句の作品とかいろんなものを通じて、できるだけ味を損なわないまま、よさが伝わるのなら、そんな素晴らしいことはないな。私たちがもしもできることがあるとするなら、俳句のハードルを下げることじゃなくて、俳句の面白さへ梯子をかけてやることなのかな、と。それは、たとえば、作品に鑑賞を添えてやったり、いろんな方法があるけれど。

佐藤  うん、自分が大好きな作品を見てもらうためなら、何でもやります。

野口  そうですね。正直に言うと、私自身は俳句を広めるとかそういうことに興味はなくって。世の中には俳句だけじゃなくて、楽しいこと他にもいっぱいあるでしょ?(笑)マイナー=価値がない、ということではないですし。ただ、もちろん、俳句の魅力を分かち合える人が増えるのは嬉しいし、俳句が広まることによって、より良い俳句が増えるなら、意味のあることだとも思っています。良い句に出会いたい、それだけですよね。

(終わり)