2016年5月18日

兜虫の王国流れ光る川

彼はまた一つの新しい感情、自由を奪い地中に埋め続ける何ものかへの憤りを確認した。上の世界にいるもの、いつかそちらへ呼び寄せるために虫たちを埋め彼一匹だけをそのままにしているもの、生きものの生死を操っている恐しい何ものかを、声になっていない叫びを何度も上げ感情の激しい動きで皮が破れても不思議ではないというくらいまで呪った。

田中慎弥「蛹」、『切れた鎖』(新潮文庫)より