2016年6月1日

芍薬は号泣をするやうに散る

6月1日

わたしを空腹にしないほうがいい。今年で22歳になるというのにお腹がすくとあからさまにむっとして怒り出したり、突然悲しくなってめそめそしたりしてしまう。子どもじゃないんだから、と自分に呆れるけれど、これはもうどうしようもない。昼食に訪れたお店が混んでいると友人が「まずい、鬼が来るぞ」とわたしの顔色を窺ってはらはらするので、鬼じゃない!と叱る。ほら、もうこうしてすでに怒っている。さらに、お腹がすくとわたしのお腹は強い雷のように鳴ってしまう。しかもときどきは人の言葉のような音で。この間は「東急ハンズ」って言ったんですよ、ほんとうです、信じて。とにかく恥ずかしいので空腹になるとおへそに手をあてて前かがみでその場をしのごうとする。雷の下でそうするように。
中学生になった頃から実家で共働きの両親の帰りを待つ間に夕飯の支度をすることが多くなって、料理をすることが好きになった。ひとり暮らしをはじめてからは自分の厨があるということがうれしくて、毎日家に帰ったら何を作ろうか考えている。

さて、あなたは今日何を食べましたか?どんな味がして、どんな気持ちになりましたか?生きている限り必ずお腹がすいてしまうということを、なんだかとっても不思議で可笑しく思います。
菜箸を握ろう。わたしがわたしを空腹にしないように。うれしくても、寂しくても、楽しくても、悲しくても。たとえば、ながい恋を終わらせた日も。