2016年6月13日

才能はないがここには夏銀河

20160613

ミンスクで料理人をしているトミーという叔父がいる。トミーと名乗ってはいるが本名はとしゆきで、彼はわたしに自分のことを「アンクル」と呼ばせる。わたしが生まれたときにはすでに日本にいなかったので、アンクルと会ったことは片手で数えるくらいしかない。たいして会ったことがないのに、わたしの親戚の中では群を抜いて印象の強い人である。アルファベットもろくに書けないくせにミュージシャンにあこがれて片道切符で日本を飛び出し、いつの間にか料理人になっためちゃくちゃな人だと聞いていて、いつでも調子がよいので姉である母はすっかりやれやれといった様子である。ホラー映画なら真っ先に殺されるタイプの陽気な人、と言えばわかりやすいだろうか。
わたしの一番古い記憶では、帰国したアンクルは全身革ジャンでバイクに乗ってきた。決して締まっているとは言えない体でバイクを降りた後、ゆっくりとサングラスを外してわたしに近づいてきて言った。「大きくなったなあ!ラブリーな姪っこちゃん!」うわ、無理、何この人、ヤバい。と思った。わたしは思春期真っただなかの、目つきの悪い中学生だった。カップヌードルをうめえうめえと食べているのを見ながら、この人は料理人だというのもたぶん嘘なのだろうと思った。
折角スピカでこうしてご飯の話をするのだから、と思いアンクルに久しぶりに連絡して、「最近作った料理でいちばんかっこいいやつの写真送って!」とせびった。この写真はりんごの花と唐辛子のサラダで、ドレッシングを液体窒素で凍らせたのだそう。おいしいのか?、しかしどうやらしっかりやっているっぽい。メッセンジャーでやり取りする中でアンクルは言った。「誇りの姪っ子よ、きみはきっと大きな星になれるぞ。僕はくずになってしまいましたので。くずはくずでも星屑ですが」。はいはい。アンクルをあしらうとき、自分でもわたしは母に似てきたなあと思う。
思春期のわたしがアンクルと会った時の話には続きがある。わたしはカップヌードルを食べ終えたアンクルに「おじさん、ほんとに料理できんの」と意地悪を言った。すると、アンクルはにやりと笑って食卓においてあったりんごを手に取り、果物ナイフであっという間にそれを今にも羽ばたきそうな白鳥のかたちにした。
アンクルはほんとうに奔放で、適当で、たまに下品で、困ったひとである。しかし、わたしはこの人が親戚であるということが、正直、ちょっとうれしい。