2016年6月19日

さみしさは柔さに宿り夏は夜

20160619

わたしにはいくつかの買い癖がある。勝負時だと思うとジャスミン茶を買う癖、不安だとミントタブレットを買う癖、酔うとアイスを買う癖、いいことがあると花を買う癖、そして、やけくそになると深夜のコンビニで甘いものを買う癖。

雨上がりのいい匂いがする、すこし蒸した深夜だとなお良い。コンビニから自宅へ帰る歩道にはわたし以外誰もいないのに、なるべく音を立てないように包みを開ける。取り出すとシュークリームの底はしっとりと濡れて冷たく、その柔らかさと軽さにどきどきする。このシュークリームはわたしのものだ、と思う。妙にそわそわする。再度周りに誰もいないことを確認してから、すこし背を屈めてかぶりつく。甘い。シュークリームはわたしの犬歯に触れて、ふしゅ、と鳴いて大人しくなる。口いっぱいに頬張ったわたしは思わずにやりとして鼻でたっぷり息を吸う。鼻腔にねっとりとバニラビーンズのにおいが満ちて、ぞくぞくしてくる。ああ、今夜もまた。ゆっくりと歩き出しながら、ひとくち、ひとくちと食べる。ときどきはクリームがこぼれないように舌で掬う。食べすすめるうちに皮がたよりなくなってきて、わたしは焦る。わたしの思うままに食べていたはずなのに、いつのまにかシュークリームに指図されたように、シュークリームの崩れる速さを追いかけて食べてしまう。どうにかすべて口へ入れ、指についたクリームは誰も見ていないので舐める。
奪ったと思っていたものは、ほんとうはいつも奪われている。