2016年6月25日

梅雨晴れや料理はさわやかな呪術

20160625

握ったから、おにぎり。なんて安直な名前!それでいてなんてすばらしい発明なのだろう!かんたんなのに奥が深くて、おいしいのに腹持ちもよい。やさしくつよい三角形もいいし、穏やかな俵型でもよい。人が握ったおにぎりはひとつとして同じではなく、どこか個性が出るのも面白い。おまけにおにぎりを作るときのポーズときたら、まるで魂を複製しているようではないか!ハクに手渡されて千尋が号泣するのもわかる。あれはきっと雷に打たれたようにおにぎりという発明に感謝して涙が出たのだ。(ちがう)

写真は醤油の焼きおにぎり。ほかにも酢飯に細切りのきんぴらと七味と白ごまを混ぜたおにぎり、ゆかりと桃屋の梅ごのみと刻んだカリカリ梅を入れた梅づくしのおにぎり、武田百合子の「ことばの食卓」の中で登場する炒り卵とちぎった海苔の混ぜ込みご飯のおにぎりなどをよく作っておひるごはんに持っていく。コンビニではずっと和風ツナが好きだったのだが、ツナ缶の油とめんつゆでご飯を炊いてみたら再現できた。

前にNHKのきょうの料理を見ていたら、わたしの大好きな土井善晴先生の回だった。先生は「今日は塩むすびと味噌むすびを作ります」と言い、わたしははらはらした。ほかの料理家がラザニアとミネストローネを作ったりする、その15分間を、おにぎりだけで一体どう持たせるのだ。「おにぎりで一番大事なのはここ」と、土井先生はにこにこ丁寧に手を洗い出した。手を洗うだけで1分。わたしは感動した。おにぎりの作り方以上に、もっと大切なことを教わっている気がしてくる。正直いびつに見えるおにぎりをつくりながら土井先生は「形を整えようとして気負わないのが上手に作るポイント」と言った。なるほど、もしやそれって人生を上手に送るポイントじゃないか。おにぎりには人生まで現れる。おにぎり、恐るべし。