2016年8月2日

片山(かたやま)のいまも濡(ぬ)れたる箸(はし)の先(さき)

小さいころ住んでいた地域には僕と同じ名字を名のる家が何軒もあった。これは田舎によくあることなのだろう。しかしながら、子どもごころに不思議だったのは、僕の家族が、どうやらこれらのどの家の人間とも血がつながっていないらしいということであった。それは幼い僕に、何かふれてはいけない秘密のようなものの存在を暗示させたものである。
むろん学校に行けば同じ名字をもつ子どもが何人もいた。けれども僕は、彼らが重大な秘密を握っているような気がして、ついにうち解けることのないままになってしまった。