2016年8月4日

(ことかわ)の舟(ふね)を受(う)けをる腕(かひな)かな

僕の実家近くに「連取」という場所があった。僕が十歳にもならないころだったか、よそから赴任してきた先生が、これを「つなとり」と読むのはかなりやっかいだと話すのを聞いて、なるほどと思ったのを覚えている。当時の僕は自分の歩いて行ける範囲が世界のすべてで、連取といえば僕の自力で想起できる世界の果てのようなものだった。この連取というのは舟の綱と何らかの関係があるらしく、どうやら連取にはかつて舟の行き来する水路があったらしいのだが、すでにその水路もなく、その名に痕跡をとどめるのみであった。