2016年8月11日

(い)ひさして喉(のど)のあはれや都川(みやこがは)

巻民代のこと④
あれだけ怖ろしかったにもかかわらず、僕はいまでもときどき巻民代を呼び戻したくなる瞬間がある。しかし、いまの僕は彼女がすっかり遠くなってしまったのを感じる。
彼女を呼ぶとき、僕はまず、目の前のあれこれについて巻民代だったらどう考えるだろうかと想像する。つまりこの時点では「巻民代」はまだ三人称なのである。この人称を次第に一人称へとずらし込んでゆくのだが、いわば精神的に彼女が憑依しただけでは、どうも彼女の句を詠むことができないらしかった。