2016年10月4日

秋の野へ泣くのにちょうどいい衣装

神社の前を通ったら、親友が境内でお祭の太鼓の練習をしていた。私は小さく手を振って通り過ぎた。いいなあ。私の家の町内はお祭りには出ない。山の斜面に張り付くようにある私の家のあたりには、鬱蒼と林に囲まれた狐や蛇の出そうな小さなお稲荷さんしかなかった。友達の多くはそれぞれの町内で出す山車を曳いたり笛や小太鼓を叩いたりしていた。私はいつも沿道で、次々と来る祭りの山車と、友達を捜しながら羨ましいと思っていた。
祭りの前日の夜、叔父が祭りの浴衣と帯、花笠をうちへ持って来ると「いがもかだってこい」と言った。叔父の会社では毎年山車を出しているのだ。ぶっきらぼうに「うん」と返事をした。その晩はよく眠れなかった。

[いがも]あなたも 
[かだってこい]仲間にいれてもらいなさい。[かだる]仲間に入るの意。仲間に入れてくださいというときは[かででけろ]と言う。