2016年10月14日

月夜ほら君にも影がないだろう

少し風がある。歩くには気持ちの良い夜だ。見上げれば雲が流れて月が。ああ、傘をかぶっている。鬱蒼とした屋敷林の角を曲がると少し前に誰かが歩いていた。見覚えのある後ろ姿。誰だっけ。向こうの街灯に黒く浮き上がって見える。ええーと、誰だったっけ。急ぎ足で追いつこうとするのだけれど、ちっとも距離が縮まらない。思わず声を掛ける。
「ねえちょっとー、、、」
あれ、誰だったっけ。名前が思い出せない。知ってるはずなのに。前を歩く人は立ち止まって振り向くと言った。
「いがでーだっきゃ」
あれ?そういえば私は誰だったろう。

[いが]あなた 
[でー]誰 
[だっきゃ]主に「です」の意で語尾につく。この場合は前の言葉から「ですか」と解釈する。