2016年10月16日

墓晴れて静かに肥る青蜜柑

その頃うちのお墓には立派な墓石ではなかった。お墓二つ分くらいの広さの地面をマサキの木で回りを囲い、小さなお地蔵さんやごろんとした石や粗末な古い墓石が幾つか並んでいて、それぞれの前には一対の竹筒が花を飾れるように地面に突き刺さっている。それがあるからそこに埋まっていると解るような感じだった。剥き出しの地面なので雑草もよく生える。お盆やお彼岸じゃなくても祖母はよく私を連れて草むしりに出かけた。何かしら話しながら草むしりを終えると「いだふぎとはぎば取ってきてちょうだい」いわれ、最期にむしった草を掃き、お墓を拭き、家から摘んできた花を供えて作業は終わる。それから本堂に行き、地獄絵図の説明をされて「地獄さ落ぢるすけ悪いごどしたらわがねぇよ」と脅される。それがいつもの草むしりの締めくくりだった。今は石を敷き詰めた立派な墓石が立ち、祖母はそこで眠っている。

[いだふぎ]雑巾 [はぎ]箒 [わがねぇよ]だめだよ