2016年10月17日

虫の夜へ罪なき舟を係留す

お向かいの家のコーちゃんは二つ上のお兄ちゃんだ。おばさんが上のおねえちゃんをピアノのお稽古に付き添って出かけた時などコーちゃんはよく家に遊びに来ていた。ある日、コーちゃんは戦車のプラモデルを持ってやってきた。大事そうに握っている黄土色と緑色の中間のような色の戦車は、真ん中から長い砲筒が一本飛び出ていた。「見せで」と手を伸ばすとコーちゃんは「ちょすなじゃ!」と言って見せてくれなかった。それから畳の縁に沿って戦車を押したり引いたりしながら一人何かブツブツと呟いて遊んでいた。つまらなくなった私は、コーちゃんの戦車を跨いで行こうとした。その時後ろの足の爪先に何かが引っかかってパキッと音がした。見ると戦車の砲筒が折れていたのだ。コーちゃんは固まって、それから泣きそうな顔になった。私は何かとても酷いことをしたみたいだった。どうしていいかわからず「おばあさーん」と祖母を呼んだ。祖母はコーちゃんに何度も誤り、私は突っ立ったままズボンの腿のところをぎゅーっと握り、コーちゃんは何も言わずに戦車を抱えて帰っていった。コーちゃんのお父さんはナントカ書士だって言ってた。「ベンショーしてけろってへられだらどやすべ」とボンヤリ考えていた。

[ちょすな]さわるな、いじるな [ベンショーしてけろってへられだらどやすべ]弁償してくれと言われたらどうしよう