2016年10月29日

秋思よく育つ肉体でもいいか

もう倒れるんじゃないかと思うほどの空腹。財布の中には十円玉と一円玉しかなく、後は家に帰るだけなのだがもうどうにも空腹で耐えられない。成長期ってこんなにもお腹がすくものなのか。その時一緒に腹をグーグー鳴らしていたルミコがぱあっと顔を明るくして「あれだ!」と言った。「ほら、あれさ」指さす先にはスーパーマーケットの看板が煌めいている。「お金ないべな~」「大丈夫。行ぐべ!」ルミコはぐいぐいと引っ張ってゆく。店に入るとルミコはうろうろと売り場を覗いて歩いて行く。いい匂いがしてきた。そこにはウィンナーの試食販売が出ていた。三角巾を被ったおばちゃんが爪楊枝に刺した半切れのウインナーを「はいどうぞー、食べでってー」と差し出している。どうも、と一つもらう。泣けるほど旨い。鉄板の上では新しいウインナーが焼かれている。店を一周してもう一度試食コーナーに戻り、もう一つもらった。更にもう一周してもう一回もらった。さすがのおばちゃんも気付いたようだが、仕方なさそうに差し出してくれた。「おめぇ、つらんつけねぇなあ」とルミコが言う。「あんだもな~」と答えると、おばちゃんがぷっと吹き出した。「ごちそうさまでした!」お礼を言ってくすくすと笑いながら私たちはスーパーを出た。これで倒れずに家まで帰れそうだった。

[お金ないべな~]お金ないでしょ
[おめぇ、つらんつけねぇなあ]あなた、図々しいわね
[あんだもな~]あなたもね