2017年3月10日

蛇口まで子を連れてゆく下萌える

私は常々自分が臆病な人間であると感じていたし、勇気も判断力も行動力も人並み以下にしか持ち合わせていないと知っていた。実際、子供の頃、プールのウォータースライダーでは、怖くて足が竦んでしまい、楽しく遊ぶ妹を尻目に、半泣きで階段を降りてくるなど、しょっちゅうだった。そんなだから、何かあれば大切な人をおいて自分だけ逃げだすのではないかと思っていたし、そんな自分が証明される日がいつか来るのではないかと怯えていた。

3.11の地震のあと、東京でも度々大きな余震があった。ある早朝、余震と呼ぶにはあまりにも強い揺れを感じて私は飛び起きた。ぼろいアパートがぐわんぐわん揺れて、本棚が倒れそうだった。やばいと思って、とっさに隣で寝ている妻に覆いかぶさった。何も考えられなかったが、妻は守らねばと思った。揺れが収まるころ、妻も起きて、私は妻を生き埋めから守ろうとしたことを、やや誇らしげに伝えた。妻は「どっちにしろ埋まるし、二人とも死んじゃう」と笑って「別にいいけど」と言った。

臆病な性格は変わらないが、とっさの時に動けたことは、自分にとって何よりの救いだった。そして、なんとなく子供がいてもいいかもしれないなと思うようになった。