2017年3月29日

駒返る草に映写機降ろしけり

二人で住んでいた古いアパートを引越したのは、2011年の7月頃だったと思う。
アパートは二間の和室とキッチンという間取りで、一部屋が妻のアトリエになっていて、彼女の版画や製作中の作品が幅を利かせていた。和室に画材というのは取合せ的に、中々良かったと思う。
風呂は、ハンドルを回して湯沸器に点火するタイプのもので、入るときは屈葬の形をとるしかない狭さだった。

いつか星ぞら屈葬の他は許されず 林田紀音夫

は好きな句で、風呂でよくつぶやいていた。

引越しでは業者をケチってしまったため、荷物を全部は運んでもらえず、原付で何度も往復して少しずつ移していった。だんだん部屋が空っぽになっていくのは中々感慨深かった。

空っぽになった部屋に最後に残ったのは、新婚旅行の記念にとっておいた空港の荷物タグシールだった。それが貼られた柱の前で、そういうイベントのように記念撮影して、一緒にタグシールを剥がした。