2017年4月1日

春雷やひとり全裸のファランクス

俳句作品に関して「フィクション」という語を用いるのは、あまり適切ではないのかもしれない。
それでも句集『虎の夜食』のあとがきに「作品はすべてフィクション」と書いたのは、俳句作品を作者の経験としての事実と同一視する読み方が、多くの読者にとって自明のものとなっているからである。また、それは結局「卒業やバカはサリンでみな殺し」という句を句集におさめたことについての言い訳である。
『虎の夜食』のあとがきは、なぜこのような句集を作ったのかについての言い訳に終始している。そして、今またこのような文を書いているのは、言い訳に言い訳を重ねることにほかならない。そして、それは私が俳句を作っていること自体への言い訳ともなるだろう。
「サリン」の句を句集に入れると決めたあとも、校正のたびに「サリン」を伏せ字にしてみたり、ひらがなにしてみたり、散々迷った挙句、結局は元のかたちで収めることになった。それでもこの句を排除しなかったのは、なぜこんな句を作ってしまったのかを知るためにこれまで俳句を作ってきたような気がするからである。