2017年4月11日

樹脂のやうな春愁溜まりゆく部室

高校卒業後上京したいと思った最大の理由は、毎月必ず歌舞伎の公演が行なわれていることであった。
大学では歌舞伎研究会というサークルに所属し、勉学がおろそかになるほどサークル活動に熱中した。しかし、歌舞伎そのものへの情熱はゆるやかに落ち着いていって、むしろ部室でおしゃべりなどをして時間を過ごすことが目的になっていたような気がする。勉学も、歌舞伎の研究も自分の芯にすることができず、自分のなかに空虚さだけが育っていた。
恋愛やサークル活動を通して、学び、成長したこともあったが、自分のなかに基準器が育っていないので、ただ目の前にあらわれるものに飛びついたり、おびえたりするばかりであった。
3年生になって就職活動をはじめたものの、自分自身を測ることも、社会や企業について判断することもできず、手元にあった就職雑誌に宛名印刷済みのハガキがついていたというだけの理由で、いくつかの企業に資料請求を行なってみたりした。バブルが崩壊し、急激に求人状況が悪化しはじめた頃である。ところが、3年終了時に残っていた単位の数が、4年生の一年間に取得可能な単位数の上限を越えてしまったため、留年が決定した。そのため就職活動は中断することになった。