2017年4月22日

スプーンに載せたる雲のすきとほる

2007年に発行された「豆の木」11号に「ねじれたスプーン」という文を書き、俳句には作者が消費者であり、読者が生産者であるというねじれが存在しているとした。自身の作品を読んでもらいたいという作者の欲望が俳句にまつわる経済活動を支えているのであり、句会は作品を読んでもらうことの対価として他人の作品を読むという交換の場である。そして、俳句を読むことを楽しむ読者は、多くの俳句作者のうちほんの一部であると考えていた。
2014年4月に公開句会「東京マッハ」に観客として参加し、俳句作者ではない読者の存在を意識した。俳句に慣れていない人が俳句作品を読んで楽しむためには、俳句独特の構造が閾の高さになることがある。しかし、適切なガイダンスさえあれば、読みを楽しむことが可能である。「東京マッハ」は作品はもとより選評が素晴らしく、評のクオリティを上げることにより、ガイダンスとエンターテイメント性を両立させたショーとして十分成立するということを実感できた。
「あらくれ句会」、そして「東京マッハ」により、俳句の読者も作者も、それらの予備軍も、これまで私が思っていた範囲の外に多く存在しているのだという確信をもった。そして、句集をつくるにあたって、そうした潜在的な読者にも届けることができる可能性をすこしでも広げたいと思った。東京マッハの司会者であり『俳句いきなり入門』(NHK出版、2012)の著者でもある千野帽子氏に『虎の夜食』の帯文をお願いした背景には、そうした思いがあった。