2017年5月18日

水木咲くあの頃を知る人も減り

水木は、住宅街などでよく見かける花水木とは別もので、山野に自生する。横に伸びた枝にテーブル状の深い緑の葉が広がり、白い花をてのひらに載せているかのようで美しい。高野公彦さんが若い頃作られた〈青春はみづきの下をかよふ風あるいは遠い線路のかがやき〉という歌がある。水木を見るといつもこの歌を口ずさみたくなる。
角川書店で「俳句」の編集長を務められたのをはじめ、長年俳句関係の出版にかかわってこられた鈴木豊一氏が亡くなられた。歳時記や全集、その他多くの企画を実現された伝説の編集者である。
私は平成2年に第5回俳句研究賞を受賞しているが、当時の「俳句研究」は富士見書房から出ていた。この会社は角川書店の子会社で、角川が「俳句研究」を買い取ったのである。その初代の編集長が鈴木豊一氏だった。角川書店系列で俳句雑誌を2冊出すというので、特命を帯びていたはずだ。その後、何かとお世話になり、ずいぶんいろいろな仕事をさせていただいた。定年後も鈴木氏は制作現場の仕事を続けられ、「女流俳句の世界」なども鈴木さんの企画である。鈴木さんは特別の編集者で、鈴木さんからの依頼は絶対に断れないし、かなりタイトなスケジュールでも無理とは言わせない迫力があった。企画から出版までの時間の短さは普通ではあり得ないと、ほかの編集者から聞いたことがある。
「鷹羽狩行の世界」を刊行するときも大変お世話になった。第一線を離れてからは俳句の実作も楽しまれていたのが嬉しい。ご冥福をお祈りしたい。写真は、俳句研究賞授賞式のときの狩行先生との1枚と、鈴木豊一氏である。