2017年7月29日

長針に触れてつめたしあなたを待つ

去年の梅雨入り前『LIFE!〜人生に捧げるコント〜』(2012~,NHK)の梅雨入り坊やというコントを見た。梅雨入り坊やという架空の伝統芸能の家系に生まれた梅雨夫(星野源)と父(内村光良)のやり取りを描くコントである。梅雨夫は大学に行ってエンジニアになりたいと言うが、父に反対されてしまう。最後は父が梅雨入り坊やの衣装を着て、両手に紫陽花のついた棒を持って踊り「梅雨入り〜!」と叫んで締めくくる。このコントがかなり面白かった。
星野源さんのことは以前から知っていたが、梅雨入り坊やをきっかけに気になり始めた。昨年は主演を務めたドラマが大ヒットし、恋ダンスが流行り、一躍時の人となった。星野源さんの初のエッセイ集である『そして生活はつづく』(2009, 文藝春秋)を読んだ。つまらない生活をおもしろがることをテーマにしたエッセイである。生活が苦手な星野源さんは、現実を忘れさせてくれる映画や芝居、音楽に夢中になる。逃避ができる世界を作る側になりたい、と思い、それが仕事になった。しかし、ある日過労で倒れてしまい、生活を置いてきぼりにすることは、もう一人の自分を置いてきぼりにすることだと気づく。そして、生活をおもしろがることが、エッセイのテーマとなった。このエッセイを読んで、星野源さんは、スーパースターではないと思った。私も、生活をおもしろがって俳句を作りたい。けど、現実逃避もしたい。
星野源さんが主演の『箱入り息子の恋』(2013,脚本 市井昌秀、田村孝裕,監督 市井昌秀)を観た。天雫健太郎は、市役所に勤務する35歳。恋愛経験がなく、実家暮らしで友だちはペットの雨蛙だけ。職場の昼休みには、一旦家に帰って昼食を食べている。そんな健太郎がお見合いで目が不自由な奈穂子(夏帆)と出会い、初恋をする。今回の俳句は、健太郎を待つ奈穂子を詠んだ。奈穂子は腕時計の針を触って時間を確かめる。健太郎の手に触れるまで不安だっただろう、と思う。『箱入り息子の恋』は、後半の展開にどうしてこうなった、と思ったけど、前半はとてもよかった。

誰が興味あんねん、と思うけど、私の初恋は中学生のときだった。Kくんは、クラスの誰とでも話すことができて、ロバート・デ・ニーロのものまねができて、自分から目立とうとするタイプではなかったけど、何か話をふられると面白いことを言うひとだった。中学2年の技術の授業で、木でできた鳥の羽が動くオルゴールを作ることになって、オルゴールの曲を4曲くらいある中から選んだ。ディズニーの曲やオルゴールらしい曲が人気な中、私はKANさんの「愛は勝つ」を選んだ。友だちも「愛は勝つ」を選んでくれた。すると、Kくんもその後「愛は勝つ」を選んだので、愛は勝ったと思った。Kくんのことはすきだったけど、中学イケてない芸人で理科園芸部の男子としかまともに話せなかったし、中学生で告白したいとか、付き合いたいとは全く思わなかったので、想いは伝えていない。
そして、中学を卒業して10年、会っていない。そういえば、高校1年のときから、周りに天然と言われるようになった。Kくんのいない高校生活を楽しくしようと思い、面白いことを言おうとして、天然と言われるキャラクターを自然と作り出したのだとしたら、私は強い。
25歳の誕生日、おめでとう。初恋を、ありがとう。