2017年8月12日

姉の香や羽蟻休ませ本の塔

―――出版社ふらんす堂、インタビュー

第9回の募集もはじまり、ふらんす堂さんの創立した田中裕明賞は、若手の間でも欲しい賞のひとつとしてすっかり定着し愛されている賞です。
あらためて、賞の意義についてお聞かせください。

「定着し愛されている賞」と言っていただけたことがとても嬉しいです。ありがとうございます。
賞の意義ですが、難しい質問ですね。続けることが第一義のような気もします。
ただ、田中裕明賞は、選考経過のすべてを記した冊子を出しています。今回の第8回の場合は「第8回田中裕明賞」という冊子ですね。この冊子を出すことが田中裕明賞という賞の最大の意義ではないかと思っています。
賞は、どの句集が、そしてだれが受賞したかということももちろん重要ですが、この年にどんな句集が刊行されたのか、どのような人が応募してくれたのかということが相対的に分かることもとても重要なことだと思います。
賞を獲らなかった方もこの冊子で語られる事で、その句集の存在が俳句の未来の遺産として重なっていき、田中裕明賞という軸の中で俳句の歴史の地層を厚くすることになるのだと思います。
授賞式の前に選者の方と応募者の方全員をご招待して吟行句会をすることもそうですが、田中裕明賞は受賞者のための賞のみならず、応募者のための賞であるとも思っています。
積み重ねていくことが、賞・受賞者・応募者の意義を明確にしていくのではないでしょうか。
田中裕明賞はこれから皆さんによって育てられていく賞なのだと実感しています。

たしかに、田中裕明賞は冊子もとても重要ですよね。受賞者・応募者たちだけではなく、俳句にかかわるあらゆる人にとって、おもしろい読み物であり、貴重な資料でもあります。現在の俳句シーンにアクセスできるということは、未来の俳句のためでもあると感じます。
賞をつくってみて、大変だったことはありますか?

何もかもが大変でした。パーティーや授賞式というものをまさか自分たちが取り仕切らなければならないことになるとは考えてもいませんでした。まだ慣れなくて……至らない点が多くてご迷惑をお掛けしております。もっとしっかりしなくてはだめですね……。
冊子作りも遅れがちで、これではいけないと「第8回田中裕明賞」は気合いを入れ直して可能な限り急いで刊行しました。授賞式、吟行会も電子書籍に収録できるように日々まとめています。
あまり賞そのもののご批判はいただかないんですよ。私たちには聞こえてこないだけかもしれませんが、批判もやはり賞を育てるひとつだと思っています。賞は続けて、そして語られてこそのものですから。そういう意味では続けることが一番大変かもしれません。

選考委員はどのような基準で選ばれたのですか?

生前の田中裕明さんが信頼されていた方々であること。その方々も田中裕明さんのことをよくご存じで、田中裕明賞にきっとご尽力していただける方にお願いしました、と山岡喜美子が言っております。

賞を受けるのに必要なことがあるとすれば、なんでしょうか?

応募することです。賞は推し量りがたいところがあるので、実力のある人でも逃すことはありますし、逆に彗星の如くあらわれた方が受賞することもあります。繰り返しになってしまいますが、賞は獲ることも重要ですが、応募して語られる事も重要だと考えます。
作品をまとめて一冊にするというのは子供を世に送り出すようなものだと思います。自分の手が離れたときに一人歩きする作品がどう語られるのかを怖れずに、まずは応募することです。

ふらんす堂は、田中裕明賞はもちろん、SNSでの反応や、文学フリマへの出店など、若手への目配りも効く出版社だと感じています。
若手俳人に期待することがあれば、お聞かせください。

エネルギーに充ちている若手の俳人のみなさんをいつも眩しく見ています。俳句とは何か表現とは何かを追い求めるのは、きっと、どの時代でも「若手」と呼ばれる方々が考える道なのだと思います。表現の幅を広げるために試行錯誤するということは、自身の人生も広げることに繋がるのではないでしょうか。今後、生活することに必死にならなくてはいけない時期が来て、表現どころではなくなってしまうこともあるかもしれません。でもどうか俳句を辞めずに続けていただきたいです(そしてできれば将来ふらんす堂から句集を出してもらえたら嬉しいなあ(笑))。

私の句集も、ふらんす堂さんから出版させていただいたのでした。ただ句集を世に出す、だけではなく、賞というさらに目にふれられる機会があるということは、句集を出す上でとても心強く嬉しいことなのだとあらためて思いました。
おつきあいくださり、ありがとうございました!

こちらこそ、ありがとうございました!

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ふらんす堂
1987年3月三鷹にて誕生。萩原朔太郎の「旅上」のフレーズから「ふらんす堂」と名付ける。漢字の「仏蘭西」とひらがなの「ふらんす」で悩んだが、誰でも読めるということと、書店での注文がしやすい点からひらがなを選ぶ。1990年に仙川に引っ越して商店街の一角で本作りを続行中。2010年に田中裕明賞を創設。

◆次回は、江渡華子さん・神野紗希さんとおしゃべり