2017年8月28日

朝雨や茶柱つぽきえのき茸

―――西村麒麟さん、インタビュー

2009年に第1回石田波郷新人賞、2014年に第4回芝不器男俳句新人賞大石悦子奨励賞・第5回田中裕明賞、そして2017年に第7回北斗賞と、若手の大きな賞を受賞なさっている西村麒麟さんです。古典に親しみながら現代を飄々と切り取るその作風にファンも多い作家です。
賞を取ってよかったこと、教えてください!

雑誌や新聞からの依頼が増えたことが大きな変化かなと。僕は波郷新人賞後に初めて(26歳)総合誌からの原稿依頼をもらいました、嬉しかったなぁ。
あとは、波郷、大石悦子さん、田中裕明に親しみがわくので、それぞれの作家の勉強をちゃんとしようと思うようになったこと。なので、僕には賞の名前はとても大切です。選者がその後も見守ってくれたり、期待してくれているような気がするので失望されないように頑張れることも、良かったかなと。やっぱり、あげなきゃ良かったとか思われたら寂しいしね。
賞を契機に句会等に呼ばれることも増え、結社外の人との繋がりも強くなり、勉強の幅が広がったのも受賞して良かったことかな。こういう人がいるんだ、と認識されないと句会にも誘いようがないしね。

賞が自分の守護神になるような感覚でしょうか。名刺代わりという側面もやはり強くあるんですね。
では、複数受賞しているからならではのよかったことはありますか?

複数受賞したことで、ぎらぎらした感じが抜けて、気持ちに余裕が出てきたかなと。その結果、文章や俳句も昔よりは柔らかくなったんじゃないかな。一回目の受賞後は、よーしチャンスをもらったから面白いものを書くぞ、という力みや焦りが強かったかもね。
やる気は大切だけれど、見てくれ見てくれという気持ちが強過ぎると、作品や文章にそれが出てしまうので、今の方が昔よりは涼しい句や文章が書けていると思うよ。そういった意味では複数の賞をいただいて良かったなと。

チャレンジャーから一転、迎え撃つモンスターになるような感じ?
他に、賞を取って印象的なことはありますか?

気のせいかもしれないけど、ちょっとだけ世の中が優しくなったかなと(笑)。
実は僕の第一句集『鶉』の出し方には批判的(自選、序文無し等はどうなの?という批判)な人もいたんだけど、賞を取ってからはあの出し方が良かったと言われるようになったこと。
ちなみに僕の所属している結社の人からは一度も批判されたことはないよ、それはありがたかった。
あと受賞関係の依頼は一年でパッタリ無くなるのも印象的。だいたいそれぞれの雑誌、新聞等から一回ずつ依頼がきます。 まぁ、それはそうだよ、一年したら次の受賞者が出るからね。

わわわ、てのひら返しってやつだ!そしてチヤホヤも期間限定なのか。

その代わりチャンスをくれている一年の間に面白いものが書けると、何か別の依頼をくれるようになるんじゃないかな。つまんなかったらもう依頼する必要ないしね。
だから新人賞とかもらった人は、注目してもらえている一年間は特に頑張った方が良いんじゃないかな。
賞って、取れば有名になってみんなが推してくれたりしてハッピー、ではもちろんないです。
むしろ取ってからが大切でボーッとしているとなんとなく一年間が過ぎます、こわいね。僕は賞を応募した段階で、受賞後のことをやんわり考えてます。俳句たくさん作らなきゃ、とかそういうことね。選者の側だって受賞後より頑張るって人にあげたいだろうし。

賞はゴールではないということを知っているからこそ、受賞してなお賞に応募し続けるスタイルにつながるのでしょうね。
その原動力についてもう少しお聞かせください。

そうだね、賞を受賞すると、一年間だけチヤホヤしてくれるんだけど、そこで関係がパッタリ終わる事が多いので、受賞し続けることによって色んな機会をもらい続けることが出来るんじゃないかな。
それと、新しい賞をもらうたびに新しい人間関係が生まれ、それが自分を高めてくれると信じていることは原動力になってるよ。
でも賞ならなんでも良いってわけじゃなくて、応募するのは尊敬できる選者がいる賞であること、すでに受賞している賞と似ている賞には出さないこと、というのは自分で決めています。
あとは正直に言ってしまうと、僕は読まれたい欲が強いのかもしれない。自分の尊敬する作家が応募作を読んでくれること、受賞作を全く知らない人が読んでくれるかもしれないということが、僕にはすごく嬉しい。どの賞もそうだけど、一番のご褒美って選者が読んでくれることだと思うよ。
自分の経験では、受賞して良かったと思うことがたくさんあったので、人から見るとたくさん受賞しているように見えるかもしれないけど、全て必要だった賞で、出して良かったし受賞出来て本当に良かったと思ってるよ。

選者が読んでくれることが一番のご褒美、いいですね。
それにしても、ちゃんと受賞する、受賞しつづけるのって本当にすごいです!ここだけの話、受賞のコツってありますか?

冷静に、自分の作品を眺めること。読者や選者にとっては、作者の努力や情熱は無関係であることを理解すること。仲間や先輩が良いと言った作品を選者が良いと言うかは別であることを冷静に判断すること。
あとは具体的なアドバイスを一つだけすると、句の並べ方で力量の差はかなり出ると思います。

わわ、秘技かと思いきや、教えてもらえちゃった!見失いそうな作家の背骨の部分の話、ありがたく。
最後に、麒麟さんにとって賞とはなんですか?

ここにいるぞ、見てくれ!と声をあげること。
自分が成長するために必要な栄養源みたいなもんかな。賞をいただいたことによって貰えた原稿依頼や出会いがたくさんあって、その期待に応えるために勉強したり頑張ったりすることが、自分のためになったし、楽しいんだよね。

なるほど。賞を養分として、どんどん成長し世界を拡げてゆく。

あと一応言っておくと、賞が全てでないので、取れなくても受賞歴がなくても有名にならなくても、実は大丈夫。自分がやる気があれば発表をする場所なんてあるんじゃないかな。結局、取れても取れなくてもやる人はやる、と思ってます。
賞の応募は、してもしなくても良いものだけど(欲しい人は出したら良いってことね)、受賞後、新しい出会いが増えたり嬉しいことがたくさんあるので、出してみたいなと思う人はおそれずに挑戦して欲しいな。
あ、最後に受賞後に師から言われた言葉を紹介しておきます。
「賞をもらって自惚れて駄目になってはいけない。志さえしっかりしていればいくつもらってもかまわない」

おお、ありがたいお言葉…!そしてそれはまさに麒麟さんのスタンスにつながっていますね。大切なのは受賞することではなく、志を持ちつづけるということ。
お付き合いくださってありがとうございました!


がやがやのぼるがにて。その日の様子は、きりんのへやのマクラにも書かれています。→博道だぞう④

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西村麒麟 略歴

1983年大阪市生まれ。古志所属。
2009年第1回石田波郷新人賞受賞。
2014年に第4回芝不器男俳句新人賞大石悦子奨励賞・第5回田中裕明賞受賞。
2017年第7回北斗賞受賞。
句集に『鶉』。

現在第二句集『鴨』を製作中、文學の森から出ます。年末ぐらいには出るんじゃないかなぁと思っています。

◆次回は、拒絶と無関心と