2017年11月1日

兎の目にて嫉みつつ望みつつ

O, beware, my lord, of jealousy! It is the green-ey’d monster which doth mock The meat it feeds on.

閣下、嫉妬には気を付けてください! そいつは緑色の目をした怪物 人の心を弄んで餌食にします ――――シェイクスピア『オセロ』第 3 幕第 3 場より

1604 年 11 月 1 日、ウィリアム・シェイクスピアの『オセロ』がロンドンにて初演を迎えた。ヴェニスの軍隊の 指揮官であるオセロに、彼を嫌う旗手イアーゴが言う台詞である。この後、オセロは彼の策略によって嫉妬が作 り出す悲劇へと陥ることとなる。

君の抱く兎を嫉みゐたりける   藤井あかり『封緘』

嫉妬は、「他人の方が私より優れている」「私には褒められるようなところがない」と自分に自信の無い人、他人 と自分を比較してしまう人が持ちやすい感情であるとされる。

ハイビスカス私はそれほど可憐ではない   角廣知美『17 音の青春 2016 五七五で綴る高校生のメッセージ』

また、他人から嫌われたり、拒否されたりするのを恐れる「拒否感受性」が高い人も相手の言動に怒りや不満を 感じることが多い。つい自分が愛されているのか相手に確認するような言動を取ってしまいがちである。 「喋るなよ。口が臭いから」 高校生の頃だっただろうか。素直に「てめぇが嫌いだから黙れ」と言ってくれた方が私は傷付かなかった。私も 他人とふつうに話せない。それでもなお喋る。

「ブラジャー買おかな」「ほんまに買えよ」かにキムチ   黒岩徳将(『天の川銀河発電所』より)

片や一方でこうした会話ができる人がいる。俳句にできる人がいる。なんて喜ばしいことだろう。どんなに現実
は味気なくても、それでもやっぱり我々はこうあるべきなのだろうと思う。羨ましいという「嫉み」より喜ばし いという「望み」の方が私は好きだ。

俳句とそれを愛する若者達にもっと恋をしたい。愛を贈りたい。彼らみたいにはなれそうにない、緑色の目をし た私のろくでもない笑いと涙の自虐的一ヵ月間。どうぞそっとしておいてやってください。