マスクしてマスクの人を思ひ出す
日本でのマスクの歴史は大正時代、粉塵避けのための工業用に作られたマスクが始まりで、インフルエンザの流行に合わせ、予防のために徐々に普及していったらしい。
降り立ちて羽田に直すマスクかな 鎌田俊(『天の川銀河発電所』より)
そんなマスクも、現代生活にすっかり馴染んでいる。季語としてのマスクは、人を隠しているようで、逆に人を表しているようにも感じる。
マスク越しの鼻歌聞きながら眠る 今泉礼奈(『天の川銀河発電所』より)
癌の治療をしながら一時期、父はマスクをしていた。
副鼻腔の癌だったため、鼻腔の奥からの出血が止まらず、鼻に脱脂綿を詰め、マスクをしながら仕事をしていたのを覚えている。
「みんなに迷惑かけるかな…」
癌が見つかったばかりの頃、父は家族にそんな風に言っていたこともあるが、他人には弱い自分を見せないようにしていた。
マスクして様々の音聞いてゐる 相沢文子(『天の川銀河発電所』より)
マスクをした表の顔も、裏側の素顔も忘れずにいたい。