すべりひゆ瓦やすらぐ土の上  中原道夫

土の上に、瓦が置かれている風景を、土の上で瓦が「やすらぐ」と表現したところに、詩情が生まれた。瓦は、たいてい屋根の上にあるのが普通だが、こう言われると、屋根の上の瓦は、ぎゅうぎゅうに詰められ、家を守るという役割を与えられ、木陰に入ることもなく、やすらぎという言葉からは遠い存在かもしれない。瓦はもともと土からできているので、むかしの仲間に囲まれていうような、そんなやすらぎがあるのだろうか。無生物につい、親しみを寄せてしまう句だ。

すべりひゆは、赤やピンク、黄色などの華やかな花をつけ、地面に這うように咲く。暑さに強いので、夏の花壇によく見る花だ。「瓦」と「土」という地味な色合いに、華やぎを添えてくれると同時に、目線を下に絞る効果もある。加えて、暑い日を思わせる花なので、土の上で太陽に照り映えている瓦の光や熱も思われる。

新刊、第十句集『天鼠』(沖積舎・2011年4月)より。二年に一冊のペースで句集を出す、その旺盛な筆力。そうだ、俳人は、俳句を作る人なのだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です