冬至かな昔トイレに紐のあり   岡田由季

紐を引っ張れば水の流れる水洗トイレは、当時とても画期的なものだっただろう。
それでも、私にとって歴史的知識になっているくらいには〈昔〉のものだ。
レバーすら少し古く、便座から立ちあがれば自動で流れるものもめずらしくないのが、今である。
〈トイレ〉は日々めまぐるしい進化をとげている訳であるが、あまりわざわざ書かれない。
〈昔トイレに紐のあり〉というなんだか雅でかっこいい大げさな言い方と、
上五に〈かな〉を持ってくる文体もあいまって、その大仰さが楽しい。
〈冬至〉の寒さにどこか品があり、まぼろしの〈紐〉がさみしく揺れているようだ。

「接触」(『俳句四季 4月号』東京四季出版、2016)より。