蟹専用食器を持つてゐて家族  喪字男

この家族にとっては、蟹を食べることが、大切なセレモニーなのだ。季節がくれば、蟹が届き(買い)、あの蟹の身を上手にこそげとるためのフォークのような食器(「蟹専用食器」としか言いようのない、アレ)をいそいそと出してきて、食卓を囲む。ああ、家族って、こういうものだろう。

同時作の末句は

降る雪のひとつひとつや元家族

一家離散したひとりひとりが、なにかのきっかけで集まって(誰かのお葬式かもしれない)降ってくる雪をそれぞれ目で追いながら、ありし日の蟹の食卓を思い返したりしているのだろう。

「里」2015年12月号(実質2016年4月発行)より。