子規多分早口桜餅ココア  加藤静夫

この句自体も、早口で、ピアノを弾くようにポロンポロンと読み上げたくなる。
私たちは子規が書いたものを文章として目にすることしかないが、あの文章のなめらかさ、残した情報量の多さからは、書きたい、伝えたい、というパッションがびしびし伝わってくる。その書いた文章や残した仕事から類推するに、実際の語り口もきっと早口だったのだろう、という楽しい想だ。ココアは健啖家で新し物好きの子規の好物。「桜餅ココア」は『仰臥漫録』のある日の食事の献立そのままのよう。

諧謔をもって現代に切り込み続ける加藤静夫の、第二句集『中略』(ふらんす堂 2016年5月)より。