ノラ猫に屋根ひとつずつ星涼し  工藤惠

人間なら窓ひとつずつ、だが、なるほどノラ猫なら「屋根ひとつずつ」なのだ。一つの月を見つめるのではなく、満の星をちりばめることで、どの猫もめいめいに時間を過ごしているさまが思われる。なわばりをゆるやかに保つその距離が「涼し」い。

第一句集『雲ぷかり』(本阿弥書店2016年6月)より。