ぎしぎしやベンチざらざら愛ざわざわ  池田澄子

オノマトペは感覚に訴えかけてくる表現で、裏を返せば、言葉で思考することを放擲したようなところもある。この句はそのオノマトペを「ぎしぎし」「ざらざら」「ざわざわ」と三つ並べた。ほぼオノマトペでできている句だ。ぎしぎしの生えているそばのベンチで愛について考えようとしても、なんだか落ち着かなくて、心が不協和音にさらわれてゆく。結局、愛なんていうものを言葉で語ろうとすることのほうが無茶で、たとえばそれは「ぎしぎし」して「ざらざら」して「ざわざわ」しているものなのだ。

「現代俳句」2016年6月号10句作品より。