ゆふがたにならない道の松の花  上田信治

松もまた「色変えぬ松」という季語もあるように、その姿が変わらないように見える木だ。そんな松も、よく見れば花をつけている。なんだか永遠に夕方にならないで、自分のゆくこの道だけが世界の循環から取り残されたような心地になっていたが、ふっと松の花があることに気がついて、とまっていたように見える時間が、ゆるりとゆらいだような感じがした、そんな微妙な気配のようなものが言い止められている句だ。春の暮って、ほんと、なんかこんなかんじ。

角川「俳句」2016年6月号・今日の俳人7句「ビル」より。