身に入むや白墨の音こつこつと   利普苑るな

〈白墨〉の白色や、〈こつこつ〉という冷たい音はもちろんのこと、
白墨を使ってなにかを書くときの心細さが〈身に入む〉気分に響きあう。
教室の黒板や、道路。〈白墨〉の向かい合う場所は大概大きいのだ。
大手チョークメーカー「羽衣文具」廃業したニュースは記憶に新しいが、
白墨によって書かれる文字が永遠ではないように、
その存在もまた、時代と共に消えていく存在なのかもしれない。
それでも、〈こつこつ〉という音が淋しくも力強く響く。

『舵』(邑書林、2014)より。