豚が鳴く卒業の日の砂利踏めば   池内嵩人

〈卒業の日〉というややもすればありきたりな感傷に陥ってしまいそうな言葉と、
上五の〈豚が鳴く〉の取り合わせが絶妙だ。
鳥でも猫でも犬でも馬でもなにが鳴いてもいいところに、〈豚〉である。
なんなら、友達や先生、自分自身が泣くと書いてしまいそうなところに、〈豚が鳴く〉のである。
また、〈卒業の日〉だから・〈砂利〉を踏んだから、豚が鳴くのではない。
そんなことはお構いなしに鳴く、ユーモラスな気ままさが〈豚〉にはある。
それでも、卒業の日を迎えている人間のセンチメンタルとそれへの照れ隠し的役割を背負い、
一句の内に繋ぎとめられた豚は、作品の中で鳴き続けることになるだろう。
そしてこうして書かれることにより、春の、卒業シーズンの象徴となってゆくのかもしれない。

第19回俳句甲子園 個人最優秀句(松山中央高校)より。団体優勝は、開成高校A。