さへづりに遅れピピピと体温計  上川拓真

朝、体温を計るときの、ほのかな微熱と、窓の外ですでに本気の、鳥たちの囀り。
体温計も、さえずりのひとつのようだ。
無生物を、生き物のように感じるとき、心はちょっとあたたかくなる。それが、春。

「週刊俳句」2017年4月23日 作品10句「おほさじ」より。〈遊郭より蝶一匹の放たるる〉〈乳母車落花の中に残さるる〉の「放たるる」「残さるる」は、他者としての浅いまなざしが露呈しているか。この句や〈春惜しむ一筆で鳥描き足して〉など、体温計や「描き足して」の〈私〉との近さが、句の奥ゆきを深くしている句に惹かれた。