蛍蛍蛍稲垣足穂蛍蛍蛍  芳野ヒロユキ

「たるほ」と「ほたる」、音の類似が、無関係と思われた二者を、ぐい、と結びつける。すると、ファンタジックな足穂の世界観と、蛍の幻想的な世界観……音以外にも通い合うものがあることに気付く。これでもか、と蛍で挟み込んで、蛍と稲垣足穂以外は存在しない、有無を言わさぬ句となった。

第一句集『ペンギンと桜』(南方社 2016年)より。
繰り出される言葉のマシンガンの中に、装填された本音がさく裂する。

いつもいつも豚の瞳は吹雪いてる
ペンギンと桜を足したような人
赤樫の実の縦縞を愛してた
老人とポテトチップス夏の暮
海パンやビキニや浪の音消えて
正岡と子規の間に紙魚がいて
十二月抱きしめられてあを洩らす
毛布から芽が出るほどのひなただよ
義母養母継母に実母牡丹に芽
いつもいつも豚の瞳は吹雪いてる
帰り花あああ愛しているんだぜ
ゆっくりと眠るといいよ猫の雪
冬銀河ヒラメが歌う恋の歌

口語の器に盛られた、むきだしの命。言語遊戯にとどまる句は愛せないが、ヒロユキの句には、どこかその遊戯性を突破する破壊力がある。