風通るベビーベッドと蛍籠   神野紗希

赤ちゃんのいる生活。
〈ベビーベッド〉と〈蛍籠〉が似ている、と書くのではなく、それを踏まえた上でなお新しい共通点としての〈風通る〉が健やかだ。どちらも中に命を宿す籠で、眠る赤子の輝かしさと〈蛍〉の輝きも通ずるところがあって。
……ということを書き連ねてしまっては、野暮というものだ。この句は、そんな野暮なことは言わず、通り抜けてゆく風の気持ちよさにただ身を任せている。
同じ作品に《靴下を付箋のように干して夏至  紗希》も。
こちらも、〈靴下〉(きっと赤ちゃんの小さな小さな靴下)と〈付箋〉の共通点を見出した句。空へピッピッと貼られるように干される靴下のまぶしさ。〈夏至〉という季語は、一年の中のターニングポイント。まさに〈付箋〉を貼りたくなるというもの。そして、日ごとに大きくなるこの子と暮らす何気ないこの瞬間を大切にしたい気持ちは、まさに生活に〈付箋〉を貼るということかもしれない。
……なんて書き連ねなくても、ただただ直感的な爽快感を味わっていたい。〈靴下〉の干し方に注目する楽しさと、晴れた〈夏至〉の日。青空にピピピと靴下がぶらさがる景もくっきりと見えてくる。いい一日が始まりそうではないか。

「眠る間も」(2016.7)より。