靴紐の白くてかたくて青蜜柑   神野紗希

〈靴紐〉の白さ硬さと、〈青蜜柑〉のみずみずしさが響きあう爽やかな句だ。まだ新しい靴とともに、どこまでも歩いてゆけそうなまぶしさがある。
さて、紗希の句には〈て〉が多い。
私の選というバイアスはあるものの、今日まであげた句も〈て〉の句が多いだろう。掲句も、〈白くてかたくて〉と中八にしてまで〈て〉を印象的に使っている。
〈て〉は、内容をふんわりと繋ぐ。あるいは、ふんわりと切る。〈て〉でつなぎ留められた言葉は俳句となる上で、このふんわり感に句が緩むとされ、添削の対象となりやすい。…だから俳句で〈て〉は使えない、中八はダメ、というのでは思考停止であり、少なくとも、作家としての挑戦はない。
〈て〉を意識的に使うということ。口語の効果というより(もちろんそれもあるだろう)、それは作家としての姿勢・戦略であり、読者はそれを意識したうえで句と向き合わなければならない。

「流し目」(2016.11)より。