原爆ドーム明るし犬の息白し 樫本由貴

原爆ドームが明るいのは、原爆投下によって屋根や壁を失い、空洞ばかりの骨組みの姿になっているから。「明るし」というプラスイメージの形容詞が、反転されて皮肉にひびく。息が白くなるほど寒い日、ただそこに、犬とドームがある。無関心な〈人間〉は、この句の中に、はじめから存在しない。「犬」に、権力の犬、などという過度な負荷をかけて読むこともできるが、骨にひびく寒さを耐え抜く犬の命を想像するだけで、じゅうぶんな気がする。

「俳句四季」2017年7月号、俳句四季新人賞最終候補作品「いつもむかうに」、選考会録より引用。