台東や猫のつそりと恋にあるく  筑紫磐井

「たいとう」は目で見れば台東区だと分かるけれども、耳で聞くと「駘蕩」とも思え、「のつそり」へとやさしく橋を渡す。たいとうや、ねこのっそりと、こいにあるく。駘蕩とした春の気配の中を、恋猫が歩いてゆく。「恋にあるく」の「に」もユニーク。仮に「恋猫のつそりと歩く」じゃあこの感じは出ない。「に」としたことで、恋にうかれ、恋という空間の中を歩いてゆくような、猫のそぞろが、じんわり出る。

「俳句新空間 平成二十九年春興帖」より。