あたたかや石をへだてて違ふ苔  岸本尚毅

石と苔。しぶく地味な素材にもかかわらず、新鮮な感じがするのは、世界の把握の仕方が、ふつうと少しずれているから。苔と苔を石が「へだてて」いるとは思わないし、「違ふ苔」という言い方もぶっきらぼうだ。でも、「へだてて」ということで、苔と苔が呼び合っているような気もしてくるし(上五で目にした「あたたか」の季語のあったかい印象も手伝って)、「違ふ苔」ということで、苔の微妙なみどりの色合いの違いがいきいき見えてくる。表現が面白ければ、どんな枯淡の世界を詠んでも、楽しい句になるのだなあ。

「俳句新空間 平成二十九年 春興帖」より。

〈白木蓮眺めて辛夷なつかしく〉など、ここのところ岸本さんが掘り続けている季重なりの句も散見。「思い出す」のではなく「なつかしく」だから、目前の木蓮もここにない辛夷も両方立つのだろう。