鈴蘭の数だけ母に日暮あり   石原日月

死の近い母を詠み続けた句集の中の一句。
〈日暮〉の光のなかで、近づいてくる死を静かに受け入れはじめる母子の姿。
〈鈴蘭〉は、葉に隠れるようにひっそりながら、ひとつの茎に多くの花をつける。
弱りゆく〈母〉の迎えるであろう〈日暮〉は、もうはっきりと少ない、訳ではないのだ。
それでも残るこの心細さは、ほかの花では味わえないだろう。
甘やかなモチーフながら、〈鈴蘭の数〉にリアリティがある一句。

『翔ぶ母』(ふらんす堂、2017)より。