忘るるなこの五月この肩車  高柳克弘

「忘るるな」と強く命じ、「この」と指示語で強調し、さらに「五月」「肩車」と畳みかける対句、後半の句またがりの勢い。技法のオンパレードでありながら、その技術が目につかないのは、父子という普遍的な主題を強く打ち出しているからか。なんだかもう会えないみたいな一生懸命な言いようである。肩車する何気ない日常も、一度きりのかけがえのない瞬間であることを、十七音に強く刻んだ。肩車をしている父と、されている子との間に、大きな断絶を感じる。それは、たっぷりと重たい過去を背負い込んでしまった父と、たっぷりと真っ白な未来を抱き込んでいる子との断絶。子は父を見ず、高く青い五月の空を見つめている。そんな子に父のいう「忘るるな」は、命令というよりも、懇願に近いのかもしれない。

「俳句四季」2017年5月号「俳句と短歌の10作競詠 高柳克弘×永井祐」より。